チェックインとレストランで、案内される内容が違っていませんか
宿泊とレストランを併設するある旅館で、こんなことがありました。チェックインの時、フロントのスタッフが、外国人のお客さんに「夕食は18時からです」と伝えました。
ところが、お客さんが実際にレストランへ向かうと、レストランのスタッフからは「今日は予約が混み合っていて、19時からのご案内になります」と言われてしまいました。
お客さんは、混乱してしまいました。フロントで聞いた話と、レストランで聞いた話が、まったく違っていたからです。
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日本語が得意でない旅行者にとって、こうした食い違いは、単なる勘違いでは済まされません。「このホテルは、スタッフ同士でちゃんと情報を共有できていないのではないか」という不安につながってしまいます。
宿泊施設とレストラン、それぞれ単独の施設であれば、こうした問題は起きにくいものです。
しかし、両方を併せ持つ旅館やホテルでは、フロント、レストラン、観光案内と、担当する部署がいくつにも分かれています。
それぞれの部署が、それぞれの持ち場だけを見ていると、お客さん一人に対して、施設全体としての一貫した対応ができなくなってしまいます。
チェックインから食事、観光案内まで、どこで聞いても同じ答えが返ってくる。そうした一貫した対応を整えるために、何を意識すればいいのかを、順番に見ていきます。
なぜ複合施設ほど対応の一貫性が難しいのか
宿泊とレストランを併せ持つ旅館やホテルでは、多くの場合、フロントを担当するスタッフと、レストランを担当するスタッフが、それぞれ別のチームとして働いています。
さらに、近隣の観光地について案内する役割も、フロントの中の特定のスタッフだけが詳しい、というケースも少なくありません。
こうした部署ごとの分かれ方は、それぞれの持ち場の仕事に集中できるという点では、理にかなった仕組みです。
しかし、お客さんの立場から見ると、フロントもレストランも観光案内も、すべて同じ一つの旅館、一つのホテルとして映っています。
お客さんにとっては、対応しているのがどの部署のスタッフであっても、「このホテルのスタッフ」という、一つのまとまりでしかありません。
ところが実際には、フロントで聞いた情報が、レストランのスタッフには伝わっていない、ということがよく起こります。
例えば、チェックインの時にお客さんが伝えたアレルギーの情報が、レストランのスタッフには共有されておらず、食事の場面で改めて同じ質問をされてしまう、といったことです。
お客さんからすれば、「さっき伝えたはずなのに、なぜまた聞かれるのだろう」という、小さな不満につながってしまいます。
単独のレストランや、素泊まりだけの宿泊施設であれば、こうした部署をまたぐ情報の受け渡しは、そもそも発生しません。
しかし、宿泊と食事、そして観光案内までを一つの施設で担う旅館やホテルだからこそ、部署の壁を越えて、情報をきちんとつなげていく工夫が、他の施設以上に求められるのです。
チェックインから食事・観光案内までの流れを整える
①チェックイン時に伝えるべき情報をまとめておく
チェックインは、お客さんがその施設と最初にじっくり関わる、大切な時間です。ここでどれだけの情報をきちんと伝えられるかが、その後の滞在全体の印象を左右します。
しかし、忙しいチェックインの現場では、伝え忘れが起きやすいのも事実です。
夕食の時間、大浴場の利用時間、Wi-Fiの使い方、近くのコンビニの場所など、伝えるべきことは意外と多く、その場の思いつきで案内していると、お客さんによって伝える内容にばらつきが出てしまいます。
この問題を防ぐために効果的なのが、チェックイン時に伝える情報を、あらかじめ一覧にしてまとめておくことです。
食事の時間と場所、館内設備の利用時間、Wi-Fiのパスワード、近隣の観光スポットやコンビニの場所など、伝えるべき項目を紙一枚に整理しておきます。
こうした一覧を用意しておけば、どのスタッフが対応しても、同じ内容を、同じ順番で伝えることができます。
外国語に不安があるスタッフでも、あらかじめ翻訳された一覧表を指差しながら説明すれば、伝え漏れを防ぐことができます。
お客さんにとっても、口頭での説明だけでなく、手元に残る一覧表があることで、後から見返して確認できるという安心感につながります。
②レストランでの対応をフロントと共有しておく
チェックインの時、多くの旅館やホテルでは、アレルギーの有無や、宗教上食べられないものがあるかどうかを、お客さんに確認しています。
しかし、せっかく確認したこの情報が、レストランのスタッフにきちんと伝わっていないケースが、実はよく見られます。
例えば、フロントで「エビや貝類のアレルギーがあります」と伝えたお客さんが、夕食の場面で改めて同じ説明を求められてしまうことがあります。
お客さんからすれば、最初にきちんと伝えたはずなのに、なぜまた同じことを聞かれるのだろうと、不信感につながってしまいます。
さらに深刻なのは、情報が共有されていないことで、対応すべき食材がそのまま提供されてしまう、というトラブルに発展することです。
こうした行き違いを防ぐためには、フロントで確認した情報を、必ずレストラン側にも伝える仕組みを作っておくことが欠かせません。
大がかりなシステムを導入しなくても、宿泊者ごとの簡単な引き継ぎメモを用意し、アレルギーや食事の制限に関する情報を書き込んでおくだけでも、十分に効果があります。
大切なのは、フロントとレストランを、別々のチームとして考えるのではなく、一人のお客さんを、施設全体で受け持っているという意識を持つことです。
情報を一度で済ませ、二度、三度と同じことを聞かずに済むようにする、その積み重ねが、お客さんの安心につながっていきます。
③観光案内をその場しのぎにしない
旅館やホテルに宿泊するお客さんは、食事や部屋の設備だけでなく、周辺の観光情報についても、頻繁に質問をしてきます。
「近くに美味しいお店はありますか」「明日はどこを観光すればいいですか」といった質問に、その場その場で答えているスタッフも多いのではないでしょうか。
しかし、この方法には、いくつかの問題があります。まず、対応するスタッフによって、案内する内容にばらつきが出てしまいます。
詳しい知識を持つスタッフが対応すれば充実した案内ができますが、たまたま対応したスタッフが土地勘に乏しい場合、曖昧な案内になってしまうこともあります。
また、忙しい時間帯に質問をされると、十分な時間を取れないまま、簡単な案内で終わってしまうこともあります。
こうした問題を防ぐために効果的なのが、あらかじめ準備した観光案内を、資料として渡せる仕組みを整えておくことです。
近隣のおすすめの飲食店、観光スポット、交通手段などをまとめた、簡単な案内資料を用意しておきます。
多言語に対応させておけば、質問された時にその場で口頭説明をするだけでなく、資料そのものを渡すことができ、お客さんは後からゆっくり読み返すこともできます。
その場しのぎの対応から、あらかじめ準備した案内へと切り替えることで、対応するスタッフが誰であっても、一定以上の質の高い案内を提供できるようになります。
部署をまたいだ情報共有の仕組みづくり
ここまで紹介してきたチェックイン、レストラン、観光案内の工夫は、どれも一つの共通点を持っています。それは、情報を一度だけ集め、それを関わるすべてのスタッフが使えるようにする、という考え方です。
とはいえ、こうした仕組みを整えるのに、必ずしも大がかりなシステムを導入する必要はありません。
小さな旅館やホテルであれば、紙のメモや、簡単な記録表だけでも、十分に役立てることができます。
例えば、宿泊者ごとの情報をまとめた一枚の記録用紙を用意し、フロントで確認したアレルギーや要望を書き込み、それをレストランの担当者に渡す、という流れを作るだけでも、大きな効果があります。
もう一つ大切なのが、スタッフ全員が、同じ案内をできるようにしておくことです。
ベテランのスタッフだけが詳しい情報を知っている状態では、その人が休みの日に対応が手薄になってしまいます。
チェックイン時に伝える情報の一覧や、観光案内の資料を、簡単なマニュアルとしてまとめておけば、経験の浅いスタッフでも、同じ水準の対応ができるようになります。
情報共有の仕組みは、一度作って終わりではありません。お客さんからの質問で、案内資料に載っていなかった内容があれば、その都度書き加えていく。
こうした地道な更新を続けることで、施設全体の対応力が、少しずつ底上げされていきます。
どこで聞いても同じ答えが返ってくる、という安心感をつくる
チェックインで丁寧に案内され、レストランでも同じ情報がきちんと引き継がれ、観光案内も充実した資料で渡される。こうした一貫した対応が整った旅館やホテルでは、お客さんの中に、ある種の安心感が生まれます。
それは、「このホテルは、誰に聞いても、同じようにしっかり対応してくれる」という信頼です。
フロントで聞いた話と、レストランで聞いた話が食い違うことがなければ、お客さんは、施設全体に対して、安心して身を委ねることができます。
逆に、部署によって対応がバラバラだと、細かい行き違いが積み重なるうちに、お客さんの中に、小さな不信感が募っていってしまいます。
一貫した対応がもたらすのは、その場限りの満足だけではありません。
旅行から帰った後、お客さんが口コミサイトに感想を書き込む時、こうした細やかな対応の一貫性は、しっかりと言葉に残されます。
「どのスタッフも丁寧で、対応がぶれなかった」という一文は、これから宿泊を検討している他の旅行者にとって、大きな安心材料になります。
そして、そうした信頼を得た旅館やホテルは、再びそのお客さんが日本を訪れる時、また選んでもらえる可能性も高くなります。
宿泊とレストラン、二つの機能を併せ持つからこそ生まれる難しさは、裏を返せば、両方をきちんと整えた時に得られる信頼の大きさでもあります。
部署の壁を越えて、一人のお客さんに向き合う体制を整えることが、これからのインバウンド対応において、複合施設ならではの強みになっていきます。


