みなさんは、「外国人のお客さんには、高い値段をつけてもいいのかな」と考えたことはありませんか。
日本を訪れる外国人の数は、年々増えています。円安(えんやす。日本のお金の価値が下がること)も重なって、日本の物やサービスは、外国人から見ると「とても安い」と感じられることが多いです。
そのため、「外国人のお客さんには、もう少し高い値段をつけてもいいのではないか」という声を聞くことがあります。
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事実、2026年7月現在の日本国内における添乗員ガイドの日給は、日本人観光客は10,000円~15,000円、外国人観光客は50,000円~100,000円に加えてチップが収入です。
この数字は公表されていません。これからも公表されることはありません。なぜ私が知っているのかというと、私が現在も旅行業界の長い経験者だからです。
この価格差の理由は、圧倒的に外国人観光客の添乗員ガイド、通訳案内士が不足しているからです。英語はもちろんのこと、今はスペイン語やポルトガル語を話せる添乗員ガイドが不足しています。
でも、ここで気をつけたいことがあります。「国籍(こくせき。その人がどこの国の人であるか)」だけで値段を分けてしまうと、思わぬトラブルにつながることがあるのです。
外国人のお客さんに向けた値段のつけ方について、正しい考え方を一緒に整理していきます。
すでに海外では行われている値段の分け方の例や、日本国内で実際に使われている方法もあわせてご紹介します。
この記事を読み終えるころには、「うちの店では、どんな値段のつけ方が合っているか」が見えてくるはずです。
①なぜ「外国人には高くしていい」と言われるのか
まず、どうしてこのような考え方が出てきたのか、背景を整理してみます。
一つ目の理由は、訪日する外国人の数が大きく増えたことです。多くの外国人が日本を訪れるようになり、飲食店や宿泊施設、観光地などでは、外国人のお客さんに対応する場面がとても多くなりました。
二つ目の理由は、円安です。円安とは、日本のお金(円)の価値が、外国のお金に比べて下がっている状態のことです。
円安になると、外国のお金を日本円に換えたときに、より多くの日本円を受け取れます。そのため、外国人からすると、日本の食事やホテルの値段が「とても安い」と感じられるようになっています。
三つ目の理由は、外国人のお客さんに対応するためには、お店側にも新しい負担が生まれるということです。たとえば、次のようなことです。
- メニューや案内板を英語や中国語などに翻訳する
- 外国のクレジットカードやスマートフォンでの支払いに対応する
- 英語で接客できるスタッフを用意する、または翻訳アプリを使う
こうした対応には、時間もお金もかかります。そのため、「対応にかかる分を、値段に反映させてもよいのではないか」という考え方が生まれてくるのです。
ここまでの話だけを見ると、「外国人には高い値段をつけてもよさそうだ」と思うかもしれません。しかし、次の章でお話しする「よくある勘違い」を知っておく必要があります。
②よくある誤解:カジノの例は実は逆
「外国人には高い値段をつけてもいい」という話をするときに、よく引き合いに出されるのが「カジノ」の例です。
「カジノは外国人しか入れないから、値段を分けるのは当たり前だ」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかし、これは事実と違っています。
日本で作られる予定のカジノ(IR施設と呼ばれています。IRとは「統合型リゾート」の略で、ホテルや会議場、カジノなどが一つになった施設のことです)では、実は逆の仕組みになっています。
- 日本に住んでいる人(日本人と、日本に住んでいる外国人)は、カジノに入るたびに6,000円の入場料を払う必要があります
- 海外から訪れた外国人観光客は、入場料が無料です
つまり、「外国人だけが入れて、日本人は入れない」のではなく、「日本に住んでいる人はお金を払って、海外からの観光客は無料」という、まったく逆の仕組みなのです。
なぜこのような仕組みになっているのでしょうか。それは、外国人からお金を集めるためではなく、日本に住んでいる人がギャンブルにのめりこんでしまうことを防ぐための対策だからです。
カジノに入る回数にも、1週間に3回まで、1か月に10回までという制限がつけられています。
このように、カジノの例は「外国人から高いお金を取ってもよい」という考え方の裏付けにはなりません。
むしろ「自分の国に住んでいる人には、負担を大きくする」という、正反対の考え方に基づいた仕組みなのです。
この例を知らずに「カジノもそうだから」と値段を分けてしまうと、お客さんや周りの人から「それは違うのでは」と指摘されてしまう可能性があります。
値段の分け方を考えるときには、正しい情報をもとに判断することが大切です。
③実際に行われている「二重価格」は国籍ではなく居住地ベース
では、日本国内で実際に値段を分けている例はないのでしょうか。実は、あります。ただし、分け方の基準が「国籍」ではなく、「住んでいる場所」であるという点が重要です。
たとえば、兵庫県にある姫路城では、入城料を、姫路市に住んでいる人と、それ以外の人とで分けています。
ここでの基準は、「日本人かどうか」ではなく、「姫路市に住民票(じゅうみんひょう)があるかどうか」です。
この考え方を整理すると、次のようになります。
- 日本に住んでいる外国人 → 住んでいる人向けの値段
- 海外に住んでいる日本人(海外旅行から一時帰国した場合など) → 住んでいない人向けの値段
つまり、「国籍」ではなく、「その地域に住んで、税金を納めているかどうか」を基準にしているのです。
この仕組みなら、「日本に住んでいる外国人まで高い値段にしてしまう」という不公平を避けることができますし、「国籍で差別している」という批判も受けにくくなります。
なぜこの基準がよく使われるのでしょうか。それは、次のような考え方があるからです。
- その地域に住んでいる人は、住民税などを通じて、すでにお城や施設の維持費用に貢献している
- 一方、海外や他の地域から来た人は、そうした費用を負担していない
- そのため、貢献度に応じて値段を分けることには、一定の合理性がある
このように、「国籍」ではなく「居住地・貢献度」を基準にすることで、多くの人が納得しやすい値段の分け方ができるのです。
もし自分のお店で値段を分けることを考える場合も、「外国人かどうか」ではなく、「日本に住んでいるかどうか」を基準にする方が、トラブルになりにくいと言えます。
④国籍だけで値段を分けるとどんなリスクがあるか
ここまでの話をふまえて、もし「国籍」だけを基準にして値段を分けてしまうと、どのようなリスクがあるのかを整理しておきます。
一つ目は、お客さんからの反発です。
「日本人だから安くて、外国人だから高い」という値段のつけ方をすると、それに気づいたお客さんが不満を感じることがあります。
特に、外国人のお客さんは、SNS(エスエヌエス。インターネット上で情報を発信できるサービスのこと)を通じて、自分の体験を世界中に発信することができます。
「このお店は国籍で値段を変えていた」という投稿が広まってしまうと、お店の評判に大きな影響を与える可能性があります。
二つ目は、口コミサイトでの評価が下がることです。
外国人のお客さんが多く利用する口コミサイトでは、「不公平な扱いを受けた」という体験は、低い評価としてそのまま残ってしまいます。
一度ついた低い評価は、あとから消すことができません。これから外国人のお客さんを増やしたいと考えているお店にとっては、大きなマイナスになってしまいます。
三つ目は、法律的にグレーな部分があることです。
日本には、国籍を理由にした値段の違いを直接禁止する法律は、今のところはっきりとは存在していません。
ただし、「合理的な理由がないのに、国籍だけで扱いを変えること」は、消費者からの信頼を大きく損なう行為として扱われる可能性があります。
「法律違反ではないから大丈夫」ということではなく、「お客さんからどう見えるか」を基準に考えることが大切です。
四つ目は、一度失った信頼を取り戻すのが難しいことです。
値段の違いが原因で悪い評判が広まってしまうと、それを打ち消すためには、長い時間と努力が必要になります。
せっかくインバウンド対応を頑張ろうとしているのに、その努力が台無しになってしまっては、もったいないことです。
このように、「国籍」だけを基準にした値段のつけ方は、短期的には売り上げが増えるように見えても、長い目で見ると、お店にとって大きなリスクを抱えることになるのです。
⑤中小事業者が現実的にできる「価格戦略」の代替案
それでは、国籍だけで値段を分けるのではなく、どのような方法であれば、無理なく安全に値段を工夫できるのでしょうか。ここでは、中小のお店でも取り入れやすい方法をいくつかご紹介します。
一つ目は、「多言語メニュー付きプラン」を作ることです。
たとえば、飲食店であれば、英語や中国語のメニューを用意したコースを、通常のメニューとは別に用意する方法があります。
これは「外国人だから高い」のではなく、「翻訳の手間や案内の手間がかかっている分、少し価格が高いプランを用意した」という説明ができます。
日本人のお客さんであっても、このプランを選ぶことができるようにしておけば、国籍による差別だという指摘を受けにくくなります。
二つ目は、「通訳ガイド同行プラン」を用意することです。
観光地や体験施設であれば、通訳ガイドが付き添う特別なプランを、通常の入場料とは別に設定する方法があります。
ガイドを付けるためには、実際に人件費がかかりますので、その分の価格を上乗せすることには、はっきりとした理由があります。
三つ目は、「外国人観光客向けの体験プラン」を、まったく別の商品として作ることです。
たとえば、通常の食事メニューとは別に、「日本の食文化を紹介する特別コース」のような、外国人のお客さんに向けた体験型の商品を新しく作る方法です。
これは値段を「変える」のではなく、「新しい商品を作る」という考え方になるため、既存のメニューとの比較がされにくく、トラブルになりにくいというメリットがあります。
四つ目は、値段を分けるのではなく、対応にかかる費用をあらかじめ経営全体でならしておくことです。
無理に外国人のお客さんだけから費用を回収しようとせず、多言語対応にかかる費用を、お店全体の経費として考え、全体の値段設定の中で少しずつ調整するという方法もあります。
急に大きな値段の差をつけるよりも、お客さんに気づかれにくく、反発を受けにくいというメリットがあります。
このように、「国籍で値段を分ける」という発想ではなく、「提供する価値やサービスの内容を変える」という発想に切り替えることで、無理なく、安全に、対応コストを価格に反映させることができるのです。
まとめ
ここまで、外国人のお客さんに向けた値段のつけ方について、お話ししてきました。最後に、大切なポイントを振り返ります。
「外国人には高い値段をつけてもいい」という考え方の背景には、訪日する外国人の増加や円安、対応にかかる費用の増加といった、理解できる理由がありました。
しかし、その根拠としてよく使われる「カジノ」の例は、実際には逆の仕組みであり、正しい裏付けにはなりませんでした。
日本国内で実際に行われている値段の分け方は、「国籍」ではなく、「住んでいる場所」を基準にしたものでした。この考え方をもとにすれば、多くの人が納得しやすい値段のつけ方ができます。
一方で、「国籍」だけを基準に値段を分けてしまうと、お客さんからの反発や、口コミサイトでの評価の低下、お店の信頼の低下といった、さまざまなリスクが生まれる可能性がありました。
そのかわりに、「多言語メニュー付きプラン」や「通訳ガイド同行プラン」など、提供する内容や価値を変えることで、無理なく対応コストを価格に反映させる方法があることも、あわせてご紹介しました。
大切なのは、「外国人だから」という理由で値段を分けるのではなく、「どのような価値を、どのくらいの費用をかけて提供しているか」を基準にして、値段を考えることです。
この考え方を持っておけば、これから外国人のお客さんを迎えるときにも、安心して、そして誠実に対応することができるはずです。


