ハラール認証がないというだけで、選ばれない店になっていませんか
日本を旅行していた、マレーシアから来たイスラム教徒の家族がいました。お腹がすいて、何か食べようと街を歩き回りましたが、なかなかお店に入ることができませんでした。
目に入るメニューには、豚肉を使った料理や、お酒を使った味付けの料理が並んでいます。
イスラム教の教えでは、豚肉やお酒は口にしてはいけないものとされているため、家族は、どのお店なら安心して食べられるのか、判断がつかずにいました。
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結局、その家族は、コンビニで買ったおにぎりだけで、その日の食事を済ませることになりました。
せっかく日本まで来たのに、食事を心から楽しむことができなかった。この家族が抱えた寂しさは、決して他人事ではありません。
こうした旅行者に安心して選んでもらうための目印となるのが、ハラール認証と呼ばれるマークです。
しかし、「ハラール認証」という言葉は聞いたことがあっても、実際にどこで、どうやって取得できるのか、詳しく知っている事業者は、まだそれほど多くありません。
ハラール認証とはそもそも何か
ハラールとは、イスラム教の教えの中で、「許されているもの」という意味を持つ言葉です。
食べ物で言えば、豚肉やお酒を使っていないこと、決められた方法で処理された肉であることなど、いくつもの細かい条件を満たしたものが、ハラールな食品と呼ばれます。
ハラール認証とは、その食品や施設が、こうしたイスラム教の教えに沿って作られている、あるいは運営されていることを、第三者の団体が確認し、証明する仕組みのことです。
認証を受けたお店や商品には、専用のマークがつけられ、そのマークを見るだけで、イスラム教徒のお客さんは、安心してその食品や施設を選ぶことができるようになります。
ここで、知っておいてほしい大切なことがあります。それは、ハラール認証には、世界共通の、たった一つの基準というものが存在しないということです。
国や地域、そして認証を行う団体によって、細かい基準や考え方に違いがあります。日本国内だけを見ても、把握されているだけで30以上、世界全体では300を超える認証団体が存在すると言われています。
日本でハラール認証を取得できる主な団体
日本国内には、いくつかの主なハラール認証団体があります。それぞれの団体は、長年の実績を積み重ねながら、独自の審査基準や、海外の認証団体との提携関係を築いてきました。
団体によって、得意とする分野や、つながりを持つ海外の国が異なります。
ある団体は、マレーシアの認証機関と相互に認め合う関係を築いており、マレーシア向けの輸出や、マレーシアからの旅行者への対応を考えている事業者に向いています。
また別の団体は、インドネシアの認証機関との結びつきが強く、インドネシア方面を意識した事業者に選ばれやすい傾向があります。
さらに、輸出を目的とした厳格な認証を得意とする団体もあれば、国内の飲食店や宿泊施設向けに、比較的取り組みやすい審査を行っている団体もあります。
大きな工場で大量生産する食品メーカーが目指す認証と、街の小さな飲食店が目指す認証とでは、求められる規模や内容が、そもそも違うのです。
だからこそ、どの団体を選ぶかを決める前に、まず自分のお店や施設が、どんなお客さんに向けて、何を伝えたいのかを、はっきりさせておくことが大切です。
輸出を見据えているのか、それとも、店を訪れるイスラム教徒の旅行者に安心してもらいたいだけなのか。この目的によって、選ぶべき団体はまったく変わってきます。
認証取得にかかる費用と期間の目安
ハラール認証を取得するまでの流れは、多くの場合、いくつかの段階を踏んで進んでいきます。
まず、認証団体に申請を行い、必要な書類を提出します。その後、書類の内容が審査され、実際にお店や工場を訪れる現場調査が行われます。
食品を扱う場合には、使っている原材料の分析が行われることもあります。こうした審査を経て、最終的に審査委員会での判断が下され、認証されるかどうかが決まります。
この一連の流れには、それなりの時間がかかります。目安としては、申請から認証を受けるまでに、3か月から1年ほどかかることが多いとされています。
書類の準備状況や、施設の規模、審査の混み具合によって、期間は前後します。
費用についても、幅があります。目安として、50万円から300万円ほどかかるとされていますが、これは、認証を受ける内容の範囲や、施設の規模によって大きく変わります。
小さな飲食店が、限られたメニューだけを対象に認証を取得する場合と、大きな食品工場が、製造ライン全体を対象に認証を取得する場合とでは、必要な調査の規模がまったく異なるため、費用にも大きな差が出てきます。
こうした時間と費用を見て、「自分のお店には、とても手が届かない」と感じてしまう事業者も少なくないはずです。
しかし、正式な認証を取得することだけが、イスラム教徒の旅行者に安心してもらうための、唯一の方法というわけではありません。
(情報は2026年7月時点のものです。費用や期間は認証団体や審査内容によって変わりますので、詳しくは各団体へお問い合わせください。)
認証取得以外にできる、ムスリムフレンドリーな対応
正式なハラール認証には、多くの時間と費用がかかります。これは、小さな飲食店や宿泊施設にとって、決して簡単に踏み出せる一歩ではありません。
しかし、認証を取得していなくても、イスラム教徒の旅行者に安心してもらうための工夫は、実はたくさんあります。
まず取り組みやすいのが、豚肉やお酒を使わないメニューを、いくつか用意しておくことです。
すべてのメニューを変える必要はありません。豚肉の代わりに鶏肉や魚を使ったメニュー、お酒を使わない味付けのメニューを、一部だけでも用意しておくことで、選べる料理が生まれます。
そして、そのメニューに、どんな材料を使っているのかを、はっきりと明記しておくことも大切です。
「豚肉不使用」「アルコール不使用」といった表示があるだけで、イスラム教徒の旅行者は、自分で内容を判断しやすくなります。
認証マークがなくても、材料の情報を正直に開示する姿勢そのものが、旅行者にとっての、大きな安心材料になります。
また、お祈りの場所についての案内も、喜ばれる対応の一つです。イスラム教徒は、1日に決まった回数、お祈りをする習慣があります。
近くにお祈りができる場所があるかどうか、あらかじめ調べて案内できるようにしておくだけでも、旅行者にとっては、心強い情報になります。
認証を取得することだけが、ムスリムフレンドリーな対応ではありません。今すぐできることから、一つずつ始めていくことこそが、多くの小さなお店にとって、現実的で、確かな一歩になります。
認証は取ることが目的ではなく、安心して選んでもらうための手段です
冒頭で紹介した、食べるものを見つけられずに困っていたマレーシアの家族。
あの家族が本当に求めていたのは、立派な認証マークそのものではありません。「ここなら安心して食べられる」という、確かな安心感だったはずです。
正式なハラール認証は、確かに大きな信頼を与えてくれるものです。しかし、多くの時間と費用がかかることを理由に、何もしないままでいるとしたら、それはとてももったいないことです。
豚肉やお酒を使わないメニューを一つ用意すること、材料をきちんと表示すること、お祈りの場所を案内できるようにしておくこと。
こうした小さな取り組みの一つひとつが、イスラム教徒の旅行者にとって、「このお店は、自分たちのことを考えてくれている」という、何よりの安心につながっていきます。
認証を取ることは、あくまでも手段の一つに過ぎません。本当に大切なのは、目の前に来てくれるかもしれない旅行者に対して、どれだけ真剣に向き合おうとするか、その姿勢そのものです。
食べるものが見つからず、寂しい思いをする旅行者を、これ以上生み出さないために。できることから、今日、一つ始めてみてください。
その小さな一歩が、まだ見ぬイスラム教徒の旅行者にとって、日本での旅を、心から楽しめるものに変えていく力になります。


