言葉が通じなくても、指差し一つでわかり合える
外国人のお客様が来店したとき、言葉が通じなくて困った経験はありませんか。
翻訳アプリを開こうとしてモタモタしてしまったり、身振り手振りで何とかしようとしたものの、結局うまく伝わらなかったり。
そんな場面が続くと、外国人客が来るたびに緊張してしまうスタッフも少なくありません。
関連する記事 チップ・お礼の渡し方に関する文化の違い|外国人客から心づけをもらったときの正しい対応
翻訳デバイスや多言語メニューは効果的ですが、導入にはある程度の費用と準備時間がかかります。「まずは費用をかけずに何かできることから始めたい」という方にお勧めしたいのが、指差しシートです。
指差しシートとは、接客でよく使うフレーズや質問を複数の言語で一枚の紙に並べたものです。
スタッフが「こちらをご覧ください」とシートを差し出し、お客様が自分の言語の部分を指差すだけで、言葉が通じなくても基本的なやり取りができるようになります。
「アレルギーはありますか?」「お支払いはカードですか?現金ですか?」「辛さはどのくらいにしますか?」といった接客でよく使うやり取りを、一枚のシートで解決できます。
費用はほぼゼロです。パソコンかスマートフォンと、A4用紙を印刷できるプリンターがあれば、今日から作り始められます。
デザインには無料で使えるオンラインツール「Canva(キャンバ)」を、翻訳には無料の翻訳ツール「DeepL(ディープエル)」を使うことで、特別なスキルがなくても見やすいシートを短時間で作ることができます。
完成したシートはラミネート加工(シートを透明のフィルムで挟んで丈夫にする加工)をしておくと、繰り返し使っても傷みにくくなります。
レジの近く・テーブルの上・受付カウンターなど、必要な場面ですぐに取り出せる場所に置いておくだけで、スタッフ全員が使えるコミュニケーションツールになります。
翻訳デバイスや多言語メニューを整える前の「最初の一歩」として、まず指差しシートを一枚作ってみることをお勧めします。小さな準備が、外国人客との接客をぐっと楽にしてくれます。
指差しシートを作る前に準備するもの
実際に指差しシートを作り始める前に、必要なものと事前の準備を整えておきましょう。難しい準備は何もありません。
必要なもの(パソコン・スマートフォン・プリンター)
指差しシートを作るために必要なものは3つだけです。
まずパソコンまたはスマートフォンです。Canvaはパソコンのブラウザからもスマートフォンのアプリからも使えるため、どちらでも作業できます。
ただし文字の入力や細かいデザインの調整はパソコンの方が格段にやりやすいため、できればパソコンで作業することをお勧めします。
次にプリンターです。作ったシートをA4用紙に印刷するために必要です。自宅や店舗にプリンターがない場合は、コンビニのマルチコピー機を使う方法があります。
Canvaはコンビニのマルチコピーサービスとそのまま連携して印刷できる機能も備えていますが、まずは通常の印刷方法で問題ありません。
最後にラミネートフィルムとラミネーターです。これは必須ではありませんが、繰り返し使うことを考えると用意しておくと便利です。
ラミネーターは家電量販店で3,000〜5,000円程度から購入でき、ラミネートフィルムも100円ショップで手に入ります。
Canvaのアカウント登録方法
Canvaは無料で使えるオンラインデザインツールです。
まずCanvaの公式サイト(canva.com)にアクセスし、「無料で登録する」ボタンをクリックします。
メールアドレス・Googleアカウント・Facebookアカウントのいずれかで登録できます。登録自体は1〜2分で完了します。
無料プランと有料プラン(Canva Pro)がありますが、指差しシートを作るだけであれば無料プランで十分です。
有料プランへの勧誘が表示されることがありますが、「後で」や「スキップ」を選べば無料のまま使い続けられます。
登録後はそのままブラウザ上で作業できるため、ソフトウェアをパソコンにインストールする必要はありません。
DeepLを使った翻訳の準備
DeepLは無料で使えるオンライン翻訳ツールで、Googleとは違った自然な翻訳精度が高く評価されています。
DeepLの公式サイト(deepl.com)にアクセスするだけで、アカウント登録なしですぐに使えます。
日本語で作ったフレーズをDeepLに貼り付け、英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語などに翻訳してコピーするだけで準備完了です。
無料版では一度に翻訳できる文字数に制限がありますが、指差しシートに使う短いフレーズであれば問題なく使えます。翻訳結果はそのままCanvaの文字入力欄に貼り付けられるため、作業の流れがスムーズです。
指差しシートを作る手順|Canvaを使ったステップごとの説明
準備が整ったら、実際にCanvaで指差しシートを作っていきます。4つのステップで完成します。
ステップ1|Canvaでテンプレートを選ぶ
Canvaにログインしたら、画面上部の検索欄に「表」または「チェックリスト」と入力して検索します。
指差しシートに適したテンプレートが複数表示されますが、最初は「シンプルな表形式のもの」を選ぶと作業がしやすいです。
テンプレートを選ぶのが難しいと感じた場合は、最初からテンプレートを使わず「A4の白紙」から始める方法もあります。
画面上部の「デザインを作成」ボタンをクリックし、サイズとして「A4文書」を選ぶと白紙のキャンバスが表示されます。
表を追加したい場合は左側のメニューから「素材」を選び、「表」と検索するとシンプルな表のパーツが見つかります。
指差しシートのレイアウトとしては、縦に言語を並べる形(左列に日本語、右列に英語・中国語・韓国語と並べる)か、フレーズごとにブロックを分ける形のどちらかが使いやすいです。
最初は縦に言語を並べる表形式の方がシンプルで作りやすいのでお勧めです。
ステップ2|フレーズを入力する
テンプレートまたは白紙のキャンバスが用意できたら、まず日本語のフレーズを入力します。
一枚のシートに盛り込むフレーズは多すぎると見にくくなるため、最初は5〜8フレーズ程度に絞ることをお勧めします。
Canvaでのテキスト入力は、テキストボックスをクリックしてそのまま文字を打ち込むだけです。
フォントサイズは最低でも14pt以上にすると読みやすくなります。日本語・英語・中国語・韓国語が混在する場合、文字化けを防ぐためにフォントは「Noto Sans」シリーズを選ぶことをお勧めします。
Noto Sansは日本語・中国語・韓国語のすべてに対応しており、Canvaの無料プランでも使えます。
ステップ3|多言語に翻訳して並べる
入力した日本語フレーズを一つずつDeepLにコピーして翻訳し、英語・中国語(簡体字または繁体字)・韓国語の訳文をCanvaの対応する欄に貼り付けます。
翻訳するときのポイントは、できるだけ短くシンプルなフレーズにすることです。
「本日のおすすめはサーモンのムニエルでございます」のような長い文章は翻訳の精度が下がりやすく、お客様も読みにくくなります。
「本日のおすすめ」「サーモン料理」のように、短く区切って翻訳する方が伝わりやすくなります。
アレルギーに関わるフレーズや食材名の翻訳は、誤訳がトラブルに直結するため、翻訳結果をそのまま使うのではなく、可能であればネイティブスピーカーや翻訳専門サービスに確認してもらうことをお勧めします。
ステップ4|デザインを整えて印刷する
フレーズの入力が終わったら、全体のデザインを整えます。
言語ごとに背景色を変える(日本語は白・英語は水色・中国語は薄いオレンジ・韓国語は薄い緑など)と、お客様が自分の言語の部分をすぐに見つけやすくなります。
各フレーズの間に区切り線を入れる・フォントサイズを言語ごとに揃えるといった工夫も、見やすさを高めるポイントです。
印刷は画面右上の「共有」ボタンから「ダウンロード」を選び、PDFまたはPNG形式で保存してから印刷します。
印刷設定は「実際のサイズ」または「合わせる」を選ぶと、A4用紙にきれいに収まります。印刷後にラミネート加工をすれば、水や汚れに強い丈夫なシートになります。
業種別・よく使うフレーズ集
指差しシートに盛り込むフレーズは、業種によって必要な内容が大きく異なります。自店舗の業種に合ったフレーズを選んで使ってください。翻訳はDeepLを使って各言語に変換してからシートに入力します。
飲食店向けフレーズ
飲食店では注文・アレルギー・支払いに関するフレーズが特に重要です。以下のフレーズを参考にしてください。
注文に関するもの:「ご注文はお決まりですか?」「こちらがおすすめです」「辛さは選べます(辛い・普通・辛くない)」「お飲み物は何になさいますか?」「おかわりはいかがですか?」
アレルギー・食事制限に関するもの:「アレルギーはありますか?」「この料理には〇〇が含まれています」「豚肉は使っていません」「卵は使っていません」「グルテン(小麦)は使っていません」
会計に関するもの:「お会計はこちらです」「現金ですか?カードですか?」「領収書は必要ですか?」「ありがとうございました、またお越しください」
一枚に盛り込みすぎると見にくくなるため、注文用・アレルギー確認用・会計用と、用途別に複数枚に分けて作ることをお勧めします。
小売店・土産物店向けフレーズ
小売店では商品の説明・在庫確認・包装・免税に関するフレーズが役立ちます。
商品説明に関するもの:「こちらが人気商品です」「これは地元の特産品です」「この商品は日本製です」「サイズはS・M・Lがあります」「色違いもあります」
在庫・包装に関するもの:「在庫を確認します、少々お待ちください」「ギフト包装はできます」「袋はご利用ですか?(有料・無料)」「他の色・サイズはありません」
会計・免税に関するもの:「免税の対象です」「パスポートを見せてください」「お支払いは現金ですか?カードですか?」「レシートをお渡しします」
宿泊施設向けフレーズ
宿泊施設ではチェックイン・施設案内・困りごとへの対応に関するフレーズが必要です。
チェックインに関するもの:「ご予約のお名前をお聞かせください」「パスポートを見せてください」「こちらがお部屋の鍵です」「朝食は〇時から〇時です」「チェックアウトは〇時です」
施設案内に関するもの:「お風呂は〇階にあります」「WiFiのパスワードはこちらです」「エレベーターはあちらです」「コインランドリーは〇階にあります」
困りごとへの対応に関するもの:「何かお困りですか?」「フロントに電話してください(内線番号:〇〇)」「タクシーを呼びますか?」「近くのコンビニは徒歩〇分です」
施設案内に関するフレーズは、地図や写真と組み合わせるとさらに伝わりやすくなります。フロントに置くシートと客室に置くシートを分けて作ると、使い勝手が上がります。
よくある質問
指差しシートの作成・活用について、よく寄せられる疑問をまとめました。
ラミネート加工は必要ですか?
必須ではありませんが、繰り返し使うことを考えると加工しておくことをお勧めします。
ラミネート加工をしていない紙のシートは、使ううちに折れ曲がったり、飲食店では料理の油や水分で汚れたりしやすく、数週間で使い物にならなくなってしまうことがあります。
ラミネーターは家電量販店やAmazonで3,000〜5,000円程度から購入でき、ラミネートフィルムは100円ショップでも手に入ります。
一度購入しておけば、シートを作り直すたびに繰り返し使えるため、長期的には費用対効果が高いです。
ラミネーターを購入するのが難しい場合は、コンビニのマルチコピー機でラミネート加工サービスを提供しているところもあります。
また文具店で販売している「貼るだけラミネートフィルム」を使えば、ラミネーターなしでも簡易的な加工ができます。
スマートフォンだけでも作れますか?
Canvaのスマートフォンアプリを使えば、パソコンなしでも指差しシートを作ることができます。
ただしスマートフォンの画面は小さいため、細かい文字の入力やレイアウトの調整がパソコンに比べてやりにくい点があります。
スマートフォンだけで作業する場合は、テンプレートをそのまま活用してフレーズを書き換えるだけという方法が現実的です。
一から細かいデザインを調整するのは難しいため、シンプルな表形式のテンプレートを選び、文字を入れ替えるだけに留めるとスムーズに作業できます。
印刷はコンビニのマルチコピー機とCanvaアプリを連携させることで、スマートフォンから直接印刷できます。
パソコンがない環境でも、スマートフォンとコンビニのマルチコピー機があれば一枚のシートを完成させることが可能です。
翻訳の精度が不安なのですがどうすればいいですか?
DeepLは現在使える無料翻訳ツールの中では精度が高い部類に入りますが、完璧ではありません。
特に食材名・料理名・アレルギーに関わるフレーズは誤訳がトラブルに直結するため、いくつかの方法で確認することをお勧めします。
一つ目は複数の翻訳ツールで同じフレーズを翻訳して比べる方法です。
DeepLとGoogle翻訳の両方で翻訳して、結果が大きく異なる場合は注意が必要です。
二つ目は翻訳した文章をもう一度日本語に逆翻訳する方法です。
例えばDeepLで英語に翻訳した文章を、今度は英語から日本語に翻訳し直したとき、元の意味に近い文章になっているかどうかを確認します。大きくずれていれば誤訳の可能性があります。
三つ目はその言語のネイティブスピーカーに確認してもらう方法です。SNSやクラウドソーシングサービスを使えば、少額の費用でネイティブチェックを依頼できます。
まず1枚作ってレジの近くに置いてみる
ここまで指差しシートの準備から作り方、業種別フレーズ集まで解説してきました。最後に全体を振り返ります。
指差しシートは「最初の一歩」として最適
翻訳デバイスや多言語メニューを整えることは、インバウンド対応として非常に効果的です。
しかし費用や準備時間がかかるため、すぐには動き出しにくいという方も多いはずです。
指差しシートはパソコンとプリンターがあれば今日中に完成させられ、費用もほぼゼロから始められます。
完璧な多言語対応ができていなくても、一枚のシートがあるだけで「この店は外国人客を受け入れようとしている」という姿勢が伝わり、旅行者に安心感を与えられます。
インバウンド対応の最初の一歩として、指差しシートは最もハードルが低く効果が出やすい方法の一つです。
作り込みすぎず、まず使ってみることが大切
最初から完璧なシートを作ろうとすると、フレーズ選びやデザインに時間をかけすぎて、なかなか完成しないという状況になりがちです。
まず5〜8フレーズだけ盛り込んだシンプルなシートを一枚作り、実際に使ってみることをお勧めします。
使い始めると「このフレーズが足りなかった」「こっちの言語が必要だった」という気づきが自然と出てきます。
Canvaで作ったデータはそのまま保存・編集できるため、気づいたときにすぐ改善して印刷し直せます。使いながら育てていくという感覚で取り組むことが、長続きするコツです。
指差しシートはゴールではなくスタート
指差しシートで外国人客とのコミュニケーションが少しスムーズになったら、次のステップとして翻訳デバイスの導入・多言語メニューの作成・Googleビジネスプロフィールの多言語対応へと進んでいきましょう。
指差しシートはあくまでも入口であり、インバウンド対応の出発点です。まずレジの近くに一枚置いてみることから、外国人旅行者に選ばれる店舗づくりが始まります。


