外国人客が来たとき、あなたの店は対応できていますか?
外国語で話しかけられ、メニューを指差してもらってなんとか注文を受けた。会計では「カード使えますか」という身振りに首を振るしかなかった。
お客様は笑顔で帰ってくれたが、本当に満足してもらえたのかどうか、正直なところよくわからない。こうした場面が、週に何度も繰り返されるようになってきた飲食店は少なくないはずです。
訪日外国人の数は増加傾向にあり、観光地だけでなく住宅街や地方の商店街にある小さな飲食店にも、さまざまな国のお客様が訪れるようになっています。
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外国人客が来店すること自体は喜ばしいことです。
しかし、注文を正確に受けられない・食材のアレルギーや宗教的な制限を確認できない・使いたい決済手段に対応していないといった問題が積み重なると、せっかくの来店が良い体験につながらず、口コミに影響することもあります。
飲食店におけるインバウンド対応は、英語が話せるようになることではありません。メニューの多言語化・翻訳デバイスの活用・キャッシュレス決済の導入・アレルギーや宗教的配慮への対応・口コミサイトへの掲載と返信。
こうした個別の対応を一つひとつ積み重ねることが、外国人客にとって「また来たい」と思える店づくりにつながります。
難しいのは、こうした対応をどの順番で、どこまで整えればいいのかがわかりにくいという点です。
予算も時間も限られている中で、優先すべきことと後回しにしてよいことを整理せずに動いてしまうと、費用だけかかって効果が出にくい状況になりがちです。
このガイドでは、飲食店がインバウンド対応を進める際に必要な要素を「注文・メニュー」「アレルギー・宗教的配慮」「会計・決済」「集客・口コミ」という4つの場面に分けて整理しています。
すべてを一度に整える必要はありません。自店舗の状況と照らし合わせながら、優先順位をつけて取り組むための参考にしていただければと思います。
飲食店のインバウンド対応が必要な理由
インバウンド対応に取り組む前に、なぜ今それが必要なのかを整理しておきます。「うちの店にはまだ外国人客はそれほど来ていない」と感じている経営者の方にも、知っておいていただきたい背景があります。
外国人客の来店機会は今後も増え続ける
2025年の訪日外国人旅行者数は約4,268万人に達しており、過去最高水準で推移しています。
この数字は今後も増加傾向が続くと見られており、観光地だけでなく地方の飲食店にも外国人客が訪れる機会は着実に広がっています。
円安傾向が続く中、日本での食事は外国人旅行者にとって割安に感じられることが多く、飲食への消費意欲は高い状態が続いています。
また訪日外国人のリピーターが増えるにつれて、定番の観光地以外の「地元の飲食店」を積極的に探す旅行スタイルが広まってきています。
SNSで話題になった飲食店には、国籍を問わず多くの外国人旅行者が訪れるケースも珍しくなくなっています。
対応できた店舗とできなかった店舗の差が広がる
外国人客への対応力は、今後の飲食店の競争力に直結するようになってきています。
同じ商店街や観光エリアに複数の飲食店がある場合、多言語メニューがあり・キャッシュレス決済に対応していて・アレルギー確認ができる店舗と、そうでない店舗では、外国人客の選択が分かれていきます。
特に影響が大きいのが、Googleマップ・Tripadvisor・各国のSNSを通じた情報拡散です。
「対応が良かった」という口コミは次の外国人客を呼び込み、「言葉が通じなかった」「カードが使えなかった」という口コミは来店機会を遠ざけます。
インバウンド対応の差は、じわじわと集客の差として積み重なっていきます。
口コミが次の外国人客を呼ぶ
外国人旅行者の多くは、来日前にSNSや口コミサイトで飲食店を探します。
Googleレビュー・Tripadvisor・小紅書(中国版Instagram)など、プラットフォームは国籍によって異なりますが、「実際に行った人の声」を重視するという点は共通しています。
良い口コミが積み重なると、同じ国の旅行者が次々と訪れるという好循環が生まれます。
台湾や韓国からの旅行者に特に多く見られるパターンとして、SNSで紹介された飲食店が一気に話題になり、短期間で多くの来店につながるケースがあります。
口コミは飲食店にとって最も費用のかからない集客手段の一つであり、その起点となるのが一人ひとりのお客様への丁寧な対応です。
注文・メニュー対応|まず最初に整えるべきこと
飲食店のインバウンド対応の中で、最初に整えるべきなのが注文・メニュー対応です。言葉が通じなくても、何が食べられるかが伝わるだけで、外国人客の来店ハードルは大きく下がります。
多言語メニューの作り方と優先言語の選び方
多言語メニューを作る際に最初に決めるべきは、どの言語から対応するかです。
自店舗に来る外国人客の国籍傾向をGoogleビジネスプロフィールのインサイト機能や口コミサイトの投稿言語で確認し、最も多い言語から優先的に整備することをお勧めします。
訪日外客数の上位を占める韓国語・中国語(繁体字・簡体字)・英語の3言語に対応できれば、大半の外国人客をカバーできます。
メニューの翻訳には、Google翻訳などの機械翻訳を活用できますが、食材名や料理名の翻訳は機械翻訳が苦手な分野でもあります。
特にアレルギーや宗教的制限に関わる食材の表記は、誤訳がトラブルに直結するため、可能な範囲でネイティブチェックを受けることをお勧めします。
翻訳サービスを提供するクラウドソーシングサービスを活用すれば、比較的低コストで品質の高い翻訳を得られます。
メニューの形式は、紙の多言語メニューを用意する方法と、QRコードを読み取るとスマートフォンで多言語メニューが表示されるデジタルメニューを導入する方法があります。
デジタルメニューは更新のたびに印刷し直す手間がなく、写真や説明を充実させやすい点が魅力です。初期費用はかかりますが、長期的なコスト削減につながります。
写真・ピクトグラムで言語に頼らない工夫
多言語メニューと合わせて効果的なのが、写真付きメニューとピクトグラム(絵文字・記号)の活用です。
実際の料理写真があれば、言語が違っても「これを頼みたい」という意思疎通が格段にスムーズになります。
特に定食・セットメニューなど、複数の料理が組み合わさっているメニューは、写真があると内容が一目で伝わります。
ピクトグラムは、アレルギー食材(小麦・卵・乳製品・ナッツなど)や宗教的配慮が必要な食材(豚肉・アルコールなど)を視覚的に示すために特に有効です。
国際的に認知されているピクトグラムを使えば、言語の壁を超えて情報が伝わります。
観光庁や農林水産省が公開している食物アレルギー表示用ピクトグラムを活用すると、信頼性の高い表示ができます。
翻訳デバイスを使った注文受けの実践
多言語メニューが整っていても、注文時に細かい要望や質問が出てくることは避けられません。
「辛さを控えめにしてほしい」「この食材を抜いてほしい」といったリクエストには、翻訳デバイスを使ったリアルタイムの会話対応が有効です。
翻訳デバイスは本体のボタンを押して話しかけるだけで相手の言語に翻訳してくれるため、スマートフォンのアプリと比べて接客の流れを止めずに使える点が大きな利点です。
飲食店での接客シーンに最適化されたPOCKETALKなどの製品は、SIM内蔵でWi-Fi環境がなくても使える点も現場での安心感につながります。
翻訳デバイスと多言語メニューを組み合わせることで、注文から細かい要望の確認まで、言語の壁をほぼ取り除くことができます。
アレルギー・宗教的配慮|外国人客特有のニーズへの対応
外国人客への対応で見落とされやすいのが、食物アレルギーと宗教的な食事制限への対応です。
言葉の壁があるために確認が十分にできず、トラブルに発展するケースもあります。事前に基本的な知識と対応方法を整えておくことが大切です。
主要なアレルギー表示の多言語化
日本では食品表示法により、特定のアレルギー物質の表示が義務づけられています。
飲食店のメニューにも、主要なアレルギー食材を多言語で表示しておくことで、外国人客が自分で確認できるようになります。
特に注意が必要なのは、日本の料理に多く使われているにもかかわらず、外国人客が気づきにくい食材です。
例えば醤油には小麦が含まれており、グルテンアレルギーを持つ旅行者には見落としやすい情報です。だしに使われるかつお節・昆布・えびなども、アレルギーの原因となりえます。
こうした「隠れアレルギー食材」の存在を多言語で伝えられる準備をしておくことが、トラブル防止につながります。
英語での主要アレルギー表記としては、小麦(Wheat/Gluten)・卵(Egg)・乳製品(Dairy/Milk)・ナッツ類(Nuts/Peanuts)・えび(Shrimp/Prawn)・かに(Crab)・そば(Buckwheat)などが基本です。
観光庁が公開しているアレルギー表示用の多言語素材を活用すると、信頼性の高い表示ができます。
ハラール・ベジタリアン・ヴィーガン対応の基本
宗教的・思想的な理由から特定の食材を避ける旅行者への対応は、飲食店のインバウンド対応の中でも特に難易度が高い部分です。
すべての要望に完全対応することは小規模な飲食店では難しい場合もありますが、基本的な知識を持ち、できる範囲を正直に伝えることが大切です。
ハラールは、イスラム教の教義に基づく食事規定です。豚肉・アルコール・豚由来の成分が含まれる食品が禁忌とされており、中東・東南アジア(マレーシア・インドネシアなど)からの旅行者に関係します。
ハラール認証を取得していなくても、豚肉・アルコールを使っていない料理を明示できれば、一定のムスリム旅行者のニーズに応えることができます。
ベジタリアンは肉・魚を食べない食事スタイルで、ヴィーガンはさらに卵・乳製品・蜂蜜も避けます。欧米・東南アジア・南アジアからの旅行者に多く見られます。
完全対応が難しい場合でも「ベジタリアン対応可能なメニューがあるかどうか」をメニューに明示するだけで、来店の判断材料を提供できます。
宗教的配慮で避けるべき食材の一覧
すべての宗教・食事スタイルに完全対応することは難しくても、主要な禁忌食材を整理しておくことで、個別に確認が必要な場面を減らせます。
代表的なものをまとめると、イスラム教(ムスリム)は豚肉・アルコール全般が禁忌、ヒンドゥー教は牛肉が禁忌、仏教(一部)は肉全般を避ける傾向があります。
ベジタリアンは肉・魚、ヴィーガンはさらに動物性食品全般を避けます。
これらをピクトグラムとあわせてメニューに表示しておくことで、口頭での確認が難しい場面でも視覚的に情報を伝えることができます。
対応できるものとできないものを正直に示すことが、外国人客からの信頼につながります。
会計・決済対応|外国人客が払いやすい環境を整える
注文・食事がスムーズにできても、会計の場面でつまずいてしまうと、せっかくの良い体験が台無しになりかねません。
外国人客が「払いやすい」と感じる環境を整えることは、来店体験の最後の印象を左右する重要な対応です。
海外発行クレジットカードへの対応
訪日外国人の多くは、海外発行のクレジットカードを主な支払い手段として持ち歩いています。
VISA・Mastercard・American Expressなどの国際ブランドに対応した決済端末を導入することで、欧米・アジア圏を問わず幅広い旅行者が支払いに困らなくなります。
注意が必要なのが、JCBと銀聯(ぎんれん)への対応です。JCBは日本発の国際ブランドですが、アジア圏の一部の旅行者も利用しています。
銀聯は中国で広く使われているカードブランドで、中国からの旅行者には特に対応が求められます。
現在使っているPOSレジや決済端末が銀聯に対応しているかどうかを事前に確認しておきましょう。
クレジットカード決済の導入にあたっては、決済端末の費用と毎月の決済手数料(売上の約2〜3%程度が一般的)がかかります。
SquareやAirペイなど、初期費用を抑えて導入できるサービスもあるため、まずは比較検討してみることをお勧めします。
Alipay・WeChat Payなどのスマートフォン決済
中国からの旅行者が特によく使うのが、AlipayとWeChat Payです。
スマートフォンのアプリを使ってQRコードを読み取るだけで決済が完了するこれらのサービスは、中国ではほぼ現金の代わりとして普及しており、中国人旅行者が日本円の現金を持ち歩かないケースも増えています。
AlipayとWeChat Payの導入には、それぞれの決済代行サービスへの申し込みが必要です。
近年は一台の端末でAlipay・WeChat Pay・クレジットカードをまとめて対応できるマルチ決済端末も普及しており、複数のサービスを個別に契約する手間を省けます。
韓国からの旅行者にはKakaoPay・NaverPayなど韓国発のQRコード決済を利用するケースもありますが、まずAlipayとWeChat Payから対応し、客層に応じて追加を検討する進め方が現実的です。
免税対応が必要なケースとは
飲食店での食事は原則として消費税の免税(タックスフリー)対象外ですが、テイクアウト商品や物販を行っている飲食店は免税対応が必要になる場合があります。
例えば、店頭で販売しているお菓子・調味料・食品土産などは、一定の条件を満たせば免税対象になることがあります。
免税販売を行うためには、税務署への免税店の届出が必要です。
観光地近くの飲食店や、外国人旅行者に人気の食品を販売している店舗では、免税対応を整えることで購買意欲が高まる場合があります。
免税手続きの詳細は国税庁の公式サイトや、免税手続きを代行するサービスを活用して確認することをお勧めします。
集客・口コミ対応|来店前から来店後までの流れを整える
外国人客への対応は、来店中だけで完結しません。来店前の情報収集から来店後の口コミ投稿まで、一連の流れを意識して整備することで、継続的な集客につながります。
Googleビジネスプロフィールの多言語対応
外国人旅行者が飲食店を探す際に最もよく使うツールの一つがGoogleマップです。Googleビジネスプロフィールを整備することで、地図上での検索結果に店舗情報が表示されやすくなります。
多言語対応として特に重要なのが、店舗名・営業時間・住所・電話番号などの基本情報を正確に登録することです。
英語表記の店舗名を別途登録できる機能も活用すると、英語圏の旅行者が検索しやすくなります。
写真は料理・店内・外観を充実させておくと、言語に関係なく店の雰囲気が伝わりやすく、来店の判断材料になります。
メニュー情報をGoogleビジネスプロフィールに登録しておくことも効果的です。
料理の写真と説明を英語・中国語・韓国語で掲載しておくと、来店前の段階で「自分が食べられるものがあるかどうか」を確認できるため、外国人客の来店ハードルが下がります。
Tripadvisorへの掲載と口コミ返信
Tripadvisorは世界中の旅行者が利用する口コミプラットフォームで、飲食店の評価を旅行先で探す外国人旅行者に広く使われています。
無料で事業者アカウントを作成でき、店舗情報の登録・口コミへの返信・写真の掲載が可能です。
口コミへの返信は、英語・中国語・韓国語などで行うことが理想ですが、まずは翻訳ツールを活用した英語での返信から始めても十分です。
良い評価への感謝の言葉・低い評価への丁寧な対応・具体的な改善への言及など、誠実な返信を続けることで「ちゃんと向き合っている店」という印象が次の旅行者に伝わります。
返信はほかの旅行者も読んでいるため、店舗の姿勢を示す重要なコミュニケーションの場です。
SNSでの多言語情報発信
外国人旅行者の多くは、渡航前にInstagramやTikTokで目的地の飲食店情報を収集しています。
料理の写真や動画を定期的に投稿し、英語や中国語のキャプションを添えることで、来日前の旅行者に店舗の存在を知ってもらえる機会が生まれます。
特に効果的なのが、ハッシュタグの活用です。料理名や地域名の英語・中国語・韓国語ハッシュタグを投稿に加えることで、検索からの流入が増えます。
すべての投稿を多言語にする必要はなく、週に1〜2回の多言語投稿から始めるだけでも、継続することで一定の効果が期待できます。
中国人旅行者を意識する場合は、小紅書(Xiaohongshu)への情報発信も検討に値します。
中国では日常的に使われているSNSで、日本の飲食店情報を検索するユーザーが多く、掲載されることで中国からの旅行者に発見されやすくなります。
優先順位をつけて一つずつ整えていく
ここまで飲食店のインバウンド対応を「注文・メニュー」「アレルギー・宗教的配慮」「会計・決済」「集客・口コミ」という4つの場面に分けて解説してきました。最後に全体を振り返りながら、実際の進め方を整理します。
完璧な準備を待たずに、できるところから始める
インバウンド対応のすべてを一度に整えようとすると、コストも時間もかかりすぎて、なかなか動き出せないまま時間が過ぎてしまいます。
大切なのは、まず自店舗に最も必要な対応を一つ選んで実践することです。
外国人客がすでに来店しているなら翻訳デバイスの導入から、カードが使えないことを指摘されたことがあるならキャッシュレス決済の導入から、口コミへの返信ができていないならGoogleビジネスプロフィールの整備から。
自店舗の課題に直結するところから手をつけることが、最も効果が出やすい進め方です。
優先順位の目安
多くの飲食店に共通する優先順位の目安として、まず最初に整えるべきなのが注文・メニュー対応です。
写真付きの多言語メニューと翻訳デバイスを用意するだけで、外国人客の来店体験は大きく改善されます。
次にキャッシュレス決済への対応で、会計でのトラブルを防ぎながら外国人客が払いやすい環境を整えます。
その後、Googleビジネスプロフィールの多言語化・Tripadvisorへの掲載と口コミ返信といった集客・口コミ対応を加えていくことで、来店前から来店後まで一連の流れが整います。
アレルギー・宗教的配慮への対応は、自店舗の客層に合わせて必要な範囲で追加していくという進め方が現実的です。
インバウンド対応は「続けること」が最も重要
一度整えた対応も、外国人客の国籍傾向・決済トレンド・SNSのプラットフォーム動向は変化します。
半年から1年に一度、Googleビジネスプロフィールのインサイトや口コミサイトの投稿傾向を確認しながら、対応内容を見直す習慣を持つことが長期的な効果につながります。
外国人客に選ばれる飲食店になるために特別な準備は必要ありません。
言葉の壁を少し下げ、払いやすい環境を整え、来店した方の声に丁寧に向き合う。その積み重ねが、口コミを通じて次の外国人客を呼び込む力になっていきます。


