稼がせてもらいながら観光客を悪者扱い、神奈川県観光の矛盾と鎌倉・箱根の現場から見えたインバウンド戦略の本音

人気すぎるがゆえの誤算、神奈川県が直面するオーバーツーリズムの現実

神奈川県と聞けば、多くの人が鎌倉の古都情緒や、箱根の名湯、江ノ島の湘南の海を思い浮かべるはずです。けれども、これほどまでに愛される観光地であることが、今、神奈川県に思わぬ課題を突きつけています。

ある旅行者は、コロナ禍が明けたあとの鎌倉小町通りを歩いていて、あまりの人出にスマートフォンの電波がほとんどつながらなくなったという体験を綴っていました。

観光地に暮らしているわけでもない、たまに訪れる程度の立場からでも、これが観光公害と呼ばれる現象なのだと肌で実感したといいます。

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ゴミの問題も深刻です。鎌倉を訪れる観光客のおよそ6割は、自宅から持参したゴミ袋で自分のゴミを持ち帰っていますが、押し寄せる人の多さに対して、この「持ち帰り頼み」の対応はすでに限界を迎えつつあると、現地調査を行った学生たちが指摘しています。

この状況は、海の向こうからも冷静に見られています。

中国のSNS上では、鎌倉のオーバーツーリズムを取り上げた投稿に対して、外国人観光客からお金を稼ぎたい一方で、受け入れ環境を整えるための費用は出し渋っているのではないか、稼がせてもらいながら観光客を悪者扱いするのは筋が通らないのではないか、という手厳しい指摘が寄せられていました。

箱根でも、同じような軋轢が起きています。神奈川県がまとめた資料によれば、大きなキャリーケースを持ちこむ観光客によって路線バスの車内が圧迫され、地元に暮らす人たちがバスに乗りきれない事態が発生しているといいます。

渋滞のせいで、観光客自身が行くはずだった場所にたどり着けず、結果として地元の事業者の売上機会まで失われるという、誰も得をしない悪循環が生まれています。

江ノ島でも、期待と現実のギャップに戸惑う声が上がっています。

混雑期の仲見世通りは身動きが取れないほどの人出になり、名物のはずの江の島岩屋も、潮位や天候によっては渡し船が欠航してしまい、思うようにたどり着けないことがあるといいます。

歴史ある町並みも、名湯も、美しい海も、あまりに人気になりすぎたことで、その魅力そのものを味わいにくくしてしまっている。

これが、今の神奈川県が抱える、なんとも皮肉な現実です。観光客にとっても、地域住民にとっても、そして事業者にとっても、この状況をどう受けとめ、どう乗り越えていくか。

神奈川県ってどんなところ?基本情報とインバウンドから見た魅力

神奈川県と聞けば、鎌倉の古都情緒、箱根の名湯、横浜の港町らしい賑わい、そして江ノ島の湘南の海を思い浮かべる人が多いはずです。

県庁所在地は横浜市で、旧国名では、県の西側の大部分が相模国、川崎市と横浜市を中心とした東側が武蔵国に属していました。

江戸時代までは、この2つの国にまたがる形で、東海道の宿場町として、また鎌倉幕府が置かれた武家政権発祥の地として、日本の歴史の中心的な役割を果たしてきた土地です。

神奈川県は、東京都に隣接しながら、鎌倉や箱根、湘南といった、全国的にも屈指の知名度を誇る観光地を数多く抱える県です。

2024年、神奈川県を訪れた観光客の延べ人数は、統計のある1961年以降で過去最高となる2億806万人を記録しました。

好調な訪日外国人客の需要や、宿泊旅行の増加を背景に、コロナ禍前の水準を大きく上回っています。

中でも横浜・川崎エリアは前の年から12.6%増の7887万人、鎌倉や江の島を含む湘南エリアも10.5%増の5036万人と、それぞれ大きく数字を伸ばしました。

一方で、この記事の冒頭で触れた通り、神奈川県は今、人気ゆえの課題にも直面しています。

コロナ前の2019年、神奈川県の訪日外国人訪問率は7.84%と全国第9位という高い水準にありましたが、東京都と比べるとまだ低いという指摘もあります。

訪日外国人観光客の国籍別では、中国からのお客さまが最も多く、次いでアメリカ、台湾と続いています。

横浜や鎌倉、箱根といった人気観光地を抱えることで、訪問者数や消費額は高い水準を保っている一方、東京から流入する観光客をどう分散させ、定番スポット以外のエリアにも足を運んでもらうかが、今後の大きな課題です。

黒岩祐治知事は、この過去最高の観光客数について、円安が背景にあり手放しでは喜べないとしながらも、多くの人に神奈川県の魅力を味わってほしいと語っています。

神奈川県の歴史と文化を感じられるスポット

神奈川県には、実業家が私財を投じて作り上げた名庭園や、鎌倉幕府とともに歩んだ古都の記憶が、今も色濃く息づいています。

三渓園 さんけいえん

三渓園は、横浜市中区本牧にある、国の名勝に指定された日本庭園です。生糸貿易で財を成した実業家、原三溪によって、明治から大正にかけて作り上げられました。

1906年に一般公開されたこの庭園は、京都や鎌倉、和歌山など各地から集められた、10件12棟の重要文化財建造物を含む、17棟もの歴史的建造物を有しています。

原三溪は、単に古い建物を集めるだけでなく、広大な敷地の起伏を生かし、庭園全体との調和を考えながら、これらの建物を巧みに配置しました。

中には、現地で荒廃していた建物を修復したうえで移築したものも含まれており、文化財を後世に残そうとする、原三溪の強い想いが伝わってきます。

「西の桂離宮、東の三渓園」と並び称されるこの名園は、江戸時代の大名庭園に匹敵する規模を誇りながら、決して華美になりすぎない、素朴で上品な美しさを持っています。

実際に訪れたガイドボランティアの話によれば、資産家の庭園と聞いてもっと成金趣味を想像していたという来園者が、実際に足を運ぶと、その落ちついた雰囲気に癒されるという感想を残していくそうです。

鎌倉市

鎌倉市は、1180年に源頼朝が本拠を構え、日本で初めての本格的な武家政権である鎌倉幕府が置かれた、歴史的な古都です。

三方を山に、一方を海に囲まれた地形は、防御に適した天然の要害であり、この地形こそが、鎌倉が武家政権発祥の地として選ばれた大きな理由でした。

鎌倉時代を通じて、この地には政治と文化の中心が置かれ、円覚寺や建長寺といった禅宗の名刹、鶴岡八幡宮のような武家の氏神を祀る神社が、次々と建立されていきました。

「いざ、鎌倉」という言葉が今も語り継がれる通り、鎌倉は武士たちの精神的な拠り所であり続けた土地です。

今も市内には、鎌倉時代から続く寺社や史跡が数多く残されており、狭い範囲の中に、これほど濃密な歴史の記憶が詰まっている街は、日本でも数少ない存在です。

円覚寺(北条時宗) えんがくじ

円覚寺は、北鎌倉にある、臨済宗円覚寺派の大本山です。

1282年、鎌倉幕府第8代執権であった北条時宗が、2度にわたる元寇、つまり文永の役と弘安の役で命を落とした、日本軍と元軍、両軍の戦死者を弔うために、中国から高僧の無学祖元を招いて創建しました。

鎌倉五山の中では第二位に列せられています。

寺の名前は、建立の際に大乗経典の「円覚経」が出土したことに由来すると伝えられ、山号である「瑞鹿山」には、仏殿の落慶法要の折、無学祖元禅師の法話を聞こうと白い鹿が集まったという、心温まる逸話が込められています。無学祖元の教えは、後に室町時代の禅文化に大きな影響を与えました。

国宝の舎利殿をはじめ、妙香池や白鷺池といった庭園も国の名勝に指定されており、夏目漱石や島崎藤村といった文豪たちも、この地で参禅したことで知られています。

秋には、総門前が鎌倉屈指の紅葉スポットとして、多くの人で賑わいます。

建長寺(鎌倉五山 第一位) けんちょうじ

建長寺は、北鎌倉にある、鎌倉五山の中で第一位に位置づけられる、鎌倉を代表する大寺院です。

かつてこの場所は「地獄谷」と呼ばれる処刑場でしたが、1253年、鎌倉幕府第5代執権の北条時頼が、中国僧の蘭渓道隆を招いて、この地に禅の道場を開きました。

北条時頼は「いざ、鎌倉」という言葉の由来にもなった謡曲「鉢の木」に登場する、名君として知られる人物です。

日本で最初の禅宗専門道場として創建された建長寺は、厳かな庭園と壮麗な建築を通じて、今も禅の精神を伝え続けています。

樹齢およそ750年ともいわれる柏槇の巨木は、幾多の時代を超えて建長寺を見守り続けてきた、生きた歴史の証人です。歴史と自然、そして静かな心の平和を、同時に感じられる場所です。

鶴岡八幡宮(源頼朝が移築) つるがおかはちまんぐう

鶴岡八幡宮は、鎌倉のシンボルとも言える神社です。

1063年、源頼朝の祖先である源頼義が、京都の石清水八幡宮から分霊を受け、由比ガ浜のほとりに祀ったことに始まります。1180年、鎌倉に入った源頼朝が、この社を現在の地へと移し、鶴岡八幡宮の礎を築きました。

頼朝は、京都の内裏にあたる場所に八幡宮を配置し、自らの屋敷や幕府は、あえてお宮から離れた東側に構えることで、神様に仕える真心を表したと伝えられています。

鶴岡八幡宮は、鎌倉武士たちの精神的な団結の拠り所であり、幕府の重要な政策も、ここで神意を問う形で決められていました。

由比ガ浜から続く、およそ1.8キロメートルの参道である若宮大路には、3つの大鳥居が立ち並び、朱塗りの三ノ鳥居をくぐる瞬間は、まさに神域へと足を踏み入れる、特別な体験です。

頼朝の死後も、北条氏や足利氏、豊臣秀吉、徳川氏といった、時代を超えた最高権力者たちから、篤い崇敬を受け続けてきました。

高徳院 こうとくいん

高徳院は、鎌倉大仏として広く知られる、国宝の銅造阿弥陀如来坐像を安置する寺院です。1252年ごろから造立が始まったと伝えられるこの大仏は、高さおよそ11.3メートル、重さはおよそ121トンにおよびます。

もともとは大仏殿と呼ばれる建物の中に安置されていましたが、室町時代に襲った津波や台風によって、建物は幾度も損壊し、以来、屋根のない露座の姿のまま、今日まで人々を見守り続けています。

14世紀に記された太平記には、鎌倉幕府滅亡の折、大仏殿の中に逃げこんだ武士たちが、倒壊した建物の下敷きになったという、悲劇的な逸話も残されています。

この大仏を訪れた文人の中には、明治の文豪もおり、その紀行文の中で、鎌倉での旅の記録とともに、大仏を目にした感動がつづられています。

長い年月、風雨にさらされながらも、静かに鎌倉の街を見守り続ける、その堂々とした佇まいは、訪れる人すべての心を惹きつけてやみません。

城ヶ島 じょうがしま

城ヶ島は、三浦半島の南端に浮かぶ、神奈川県最大の自然島です。

東西およそ1.8キロメートル、南北およそ0.6キロメートル、周囲およそ4キロメートルというコンパクトな島でありながら、太平洋から吹きつける風と荒波によって作られた、海食洞穴や海食崖といった、変化に富んだ地形を持っています。

源頼朝がたびたびこの地を訪れたという記録も残る、歴史ある景勝地です。

島の西の高台には、明治3年に初点灯した、日本で5番目に古い洋式灯台「城ヶ島灯台」がそびえます。

東の突端には安房埼灯台があり、この2つの灯台は「恋する灯台」として認定され、朝日と夕日の両方を楽しめる、ロマンティックなペアとして親しまれています。

灯台のふもとに広がるレトロな商店街では、三崎名物のマグロを使った海鮮丼を味わうこともでき、島内には気軽に歩ける自然豊かなハイキングコースも整備されています。

芦ノ湖(遊覧船が人気) あしのこ

芦ノ湖は、箱根火山の活動によって作られた、標高およそ723メートルのカルデラ湖です。

神奈川県最大の湖であり、駒ヶ岳や神山といった箱根の山々に囲まれながら、天気の良い日には、湖の向こうに雄大な富士山の姿を望むことができます。

この湖の観光を象徴する存在が、西洋の帆船戦艦を模したデザインの「箱根海賊船」です。

桃源台港、元箱根港、箱根町港という3つの港を、片道25分から40分ほどかけて周遊し、湖上から箱根の絶景を存分に楽しめます。

漫画やアニメの海賊ブームも手伝って、子どもから大人まで楽しめる人気アトラクションとなっており、外国人観光客からも高い支持を集め、デッキが満員になることも珍しくありません。

ゆったりとした船旅を求める人には、双胴船タイプの遊覧船という選択肢もあります。風のない朝には、水面が鏡のように富士山を映しこむ、息をのむ瞬間に出会えることもあります。

箱根神社 はこねじんじゃ

箱根神社は、芦ノ湖のほとりに鎮座する、関東総鎮守として古くから崇められてきた名社です。

社伝によれば、第5代孝昭天皇の時代、聖占仙人が箱根山の駒ヶ岳に神仙宮を開いたことに始まり、奈良時代の757年には、万巻上人によって、今の形へと整えられました。

開運厄除、心願成就、交通安全、縁結びに霊験あらたかな、運開きの神様として信仰され、関東における山岳信仰の一大霊場として、長い歴史を歩んできました。

芦ノ湖に面した朱塗りの鳥居は、湖と一体になった、箱根を象徴する景観として、多くの参拝者や観光客を惹きつけています。

九頭龍神社 くずりゅうじんじゃ

九頭龍神社は、箱根神社の境外社として創建された、縁結びのご利益で知られる神社です。

奈良時代、芦ノ湖に住み、嵐を呼んでは村人を苦しめていた9つの頭を持つ毒龍を、高僧の万巻上人が調伏したところ、龍は改心して龍神へと姿を変えました。

この龍神を祀ったことが、九頭龍神社の始まりだと伝えられています。

芦ノ湖畔の森の中にひっそりとたたずむ本宮は、若い女性を中心に多くの人が訪れる、人気のパワースポットです。

箱根神社のすぐ隣には新宮も祀られており、良縁を願う参拝者は、箱根神社と九頭龍神社の両方をめぐる「両社参り」に挑戦することもできます。

毎月13日には月次祭、8月4日には湖尻龍神祭が執り行われるなど、今も地域の人々の信仰の中心として、大切に守られています。

箱根湯本温泉 はこねゆもとおんせん

箱根湯本温泉は、箱根温泉郷の玄関口に位置する、箱根七湯の1つです。

標高およそ100メートルのこの地は、箱根温泉全体の中でも中心的な存在であり、小田急ロマンスカーや箱根登山鉄道、路線バスといった交通機関が一堂に会する、箱根観光の起点でもあります。

箱根の開湯は738年、僧の釈浄定坊が発見した「惣湯」にさかのぼると伝えられ、この源泉は今も使われ続けています。

戦国時代には、北条早雲の遺言によって創建された早雲寺をはじめ、鎌倉時代から旅人の信仰を集めてきた正眼寺など、深い歴史を感じさせる建物が今も点在しています。

源泉数、宿泊施設数ともに箱根随一を誇り、お土産屋や食事処が軒を連ねる温泉街を、食べ歩きしながらそぞろ歩く楽しさも、この温泉地ならではの魅力です。

強羅温泉 ごうらおんせん

強羅温泉は、標高およそ700メートルの高原に開かれた、箱根十七湯の中でも比較的新しい温泉地です。

1894年、早雲山からの引き湯によって開発が始まり、明治から大正にかけては、政財界人や文人たちの別荘地として栄えました。1919年に箱根登山鉄道が開通したことで、正式に箱根十七湯の仲間入りを果たしています。

1952年に初めて温泉の掘削に成功して以来、数多くの源泉が新たに掘り当てられ、今ではカルシウム-硫酸塩泉をはじめとした、多様な泉質が楽しめる温泉地へと発展しました。

1914年に開園した、日本初のフランス式整形庭園である強羅公園をはじめ、周辺には彫刻の森美術館など、数多くの美術館が点在しています。

かつての別荘文化が育んだ、上品で落ちついた雰囲気と、文化と自然を同時に満喫できる贅沢さが、強羅温泉の何よりの魅力です。

仙石原温泉 せんごくはらおんせん

仙石原温泉は、標高およそ700メートルの広大な草原に開かれた、高原リゾートです。

1736年、大涌谷からの引き湯によって温泉利用が始まり、今も大涌谷の硫黄泉と、姥子の透明湯を集中管理しながら、各旅館へと供給しています。

大正から昭和にかけて、欧米型の避暑地として開発された歴史を持つこの温泉地は、他のエリアと比べて自然がよく保存されていることが、大きな特徴です。

旅館やホテルは、自然環境との調和を優先して作られており、そのイメージが仙石原ならではの魅力として、今も広く認知されています。

秋になると、かながわの景勝50選にも選ばれた、金色に波打つすすき草原が一面に広がり、外輪山の山々と調和した、幻想的な景色を楽しめます。

富士箱根伊豆国立公園(芦ノ湖・仙石原・大涌谷) ふじはこねいずこくりつこうえん

富士箱根伊豆国立公園は、富士山を中心に、箱根や伊豆半島、伊豆諸島までを含む、広大な国立公園です。1936年に指定されて以来、日本を代表する国立公園の1つとして、多くの人々に親しまれてきました。

神奈川県内では、箱根エリアがこの国立公園の重要な一部を担っています。

その象徴的な存在が、大涌谷です。今からおよそ3000年前、箱根火山の最高峰である神山が起こした水蒸気爆発によって作られたこの爆裂火口では、今も硫化水素を含んだ白い噴気が立ちのぼり続けています。

かつては「大地獄」と呼ばれていましたが、1873年、明治天皇の行幸をきっかけに、今の名前へと改められました。

噴気地帯で温泉の熱を使って作られる「黒たまご」は、1つ食べると寿命が7年延びるという言い伝えとともに、大涌谷を代表する名物になっています。

箱根ロープウェイに乗れば、この荒々しい火山地形と、天気が良ければ富士山や芦ノ湖までを一望する、大パノラマを楽しむことができます。

仙石原の高原や、九頭龍伝説の残る芦ノ湖とあわせて、火山が生み出した雄大な自然を、まるごと体感できる場所です。

神奈川県のオススメの食べ物

神奈川県といえば、まず外せないのが横浜中華街のグルメです。日本最大級の中華街には、点心や中華まん、フカヒレ料理まで、本場さながらの味が食べ歩きで楽しめます。

できたての小籠包を頬張れば、あふれ出す肉汁の旨味に、思わず笑みがこぼれます。

海の幸なら、三浦半島の名物であるマグロが格別です。城ヶ島や三崎港で水揚げされる本マグロは、身の締まりと脂のノリが絶妙で、海鮮丼でその実力を存分に味わえます。

鎌倉のしらすも見逃せません。生しらす丼は、プリプリとした新鮮な食感と磯の香りが、鎌倉ならではの海の恵みを感じさせてくれます。

箱根に足を運ぶなら、名物の黒たまごをぜひ味わってほしいです。

大涌谷の温泉で茹でることで殻が真っ黒になるこのたまごは、1つ食べると寿命が7年延びるという、なんとも縁起の良い言い伝えとともに親しまれています。

寄木細工の里ならではの、素朴な味わいの温泉まんじゅうも、旅の休憩にぴったりです。

麺類なら、横浜家系ラーメンが神奈川県のソウルフードです。豚骨醤油の濃厚なスープと、太めのストレート麺、そして海苔とほうれん草、チャーシューという組みあわせは、一度食べたらやみつきになる、力強い味わいです。

そして、鎌倉野菜を使った料理も、ぜひ味わってほしい一品です。地元の畑で丁寧に育てられた、色とりどりの野菜は、シンプルな調理でこそ、その甘みと旨味が引き立ちます。

神奈川県は、中華街の異国情緒も、三浦や鎌倉の海の幸も、箱根の名物も、すべてが力強く根づいた、食の宝庫だと言えます。

神奈川県ならではの祭りと伝統行事

神奈川県には、鎌倉幕府ゆかりの荘厳な神事から、夏の夜空を彩る炎の祭典まで、それぞれの土地の歴史を映し出す、個性豊かな祭りが息づいています。

鶴岡八幡宮 例大祭 つるがおかはちまんぐう れいたいさい

鶴岡八幡宮例大祭は、毎年9月14日から16日にかけて行われる、鎌倉を代表する神事です。

その起源は1187年、源頼朝によって行われた放生会と流鏑馬にさかのぼり、以来800年以上にわたって、絶えることなく受けつがれてきました。

1日目には宵宮祭、2日目には本祭にあたる例大祭と神幸祭、そして3日目には、境内に馬場を作り、疾走する馬上から的をめがけて矢を射る、勇壮な流鏑馬神事が執り行われます。

鈴虫放生祭も、この3日目にあわせて行われる神事です。武家政権発祥の地である鎌倉らしい、武士の心得を今に伝えるこの神事は、装束をまとった射手が馬を駆る姿とともに、多くの見物客の心を掴んで離しません。

箱根強羅温泉 大文字焼き はこねごうらおんせん だいもんじやき

箱根強羅温泉大文字焼きは、1921年、観光客や避暑客をもてなす、お盆の送り火として始まった伝統行事です。

箱根外輪山の1つ、標高924メートルの明星ヶ岳の山腹に描かれた、大の字の形をした火床に、午後7時30分、一斉に火が灯されます。

はじめは点だった小さな炎が、時間とともに線となってつながり、やがて夜の闇の中に「大」という巨大な文字が、くっきりと浮かび上がっていく様子は、まさに幻想的のひと言に尽きます。

点火と同時に打ち上げられる花火とのコラボレーションも、この行事の大きな見どころです。京都の五山送り火にも通じる、火にまつわる日本の夏の風物詩を、箱根の山あいで体感できる、貴重な機会です。

湯河原温泉 湯かけまつり ゆがわらおんせん ゆかけまつり

湯河原温泉湯かけまつりは、毎年5月、湯河原町で開催される、温泉の恵みに感謝する伝統行事です。

町を挙げてのこの祭りでは、神輿をかつぐ担ぎ手たちに向かって、沿道から次々と威勢よく温泉のお湯がかけられます。

湯をかけるという、他の地域ではあまり見られない独特の風習には、この土地が古くから湯治場として栄えてきた歴史と、温泉そのものへの深い感謝の気持ちが込められています。

担ぎ手も見物客も、ともにびしょ濡れになりながら盛り上がるその一体感は、温泉地ならではのユーモアと活気にあふれています。

1万5000人もの人出で賑わうこの祭りは、神奈川県の温泉文化を象徴する、ユニークなお祭りです。

神奈川県を訪れる外国人観光客の国籍・傾向

神奈川県を訪れる外国人観光客の数字を見ると、好調なインバウンド需要が、県全体の観光客数を押し上げていることがわかります。

2024年、神奈川県を訪れた観光客の延べ人数は、統計のある1961年以降で過去最高となる2億806万人を記録しました。

好調な訪日外国人客の需要や、宿泊旅行の増加を背景に、コロナ禍前の水準を上回っています。宿泊客数は前の年から12.9%増の2023万人、日帰り客数も8.5%増の1億8783万人と、いずれも大きく伸びています。

コロナ前の2019年、神奈川県の訪日外国人訪問率は7.84%で、全国第9位という水準でした。

2020年1月から3月の統計では、神奈川県を訪れた外国人観光客の国籍別内訳は、中国が最も多く7万892人、次いでアメリカが3万2545人、台湾が2万9724人という結果でした。

1人当たりのインバウンド消費額は6万5038円と、決して低くない水準を保っています。

エリア別に見ると、横浜・川崎エリアが前の年から12.6%増の7887万人、鎌倉や江の島を含む湘南エリアも10.5%増の5036万人と、それぞれ大きな伸びを記録しました。

横浜市の観光政策や、イベント事業者との連携の効果、そして人気観光地である鎌倉や江の島への来訪者の増加が、この結果を後押ししています。

一方で、この記事の冒頭で触れた通り、こうした人気の高まりは、鎌倉や箱根における、オーバーツーリズムという新たな課題も生み出しています。

黒岩祐治知事も、円安を背景にした観光客の増加を、手放しでは喜べないと語っています。

横浜や鎌倉、箱根といった定番のスポットに観光客が集中する一方で、東京から流入する観光客をどう分散させ、県内の他のエリアにも足を運んでもらうかが、神奈川県のインバウンド戦略における、大きな課題として残されています。

事業者が知っておきたい神奈川県特有の受け入れポイント

ここまで見てきた神奈川県の観光地や、観光客の傾向をふまえて、実際にどんな受け入れの工夫ができるのか、具体的にお伝えします。

まず正直にお伝えしたいのが、この記事の冒頭で触れた通り、神奈川県は人気があるからこそのオーバーツーリズムという課題を抱えているということです。

鎌倉の小町通りの混雑や、箱根での路線バスの圧迫は、観光客にとっても地域住民にとっても、決して望ましい状況ではありません。

事業者にできることは、混雑する時間帯やエリアをあらかじめ発信し、比較的空いている時間帯や、まだ知られていない周辺スポットへ、お客さまをやさしく誘導する工夫です。

これは、お客さま自身の満足度を高めることにもつながります。

次に意識したいのが、中国、アメリカ、台湾というお客さまが、神奈川県のインバウンドの中心をしめているということです。

簡体字や繁体字のメニュー、英語での丁寧な案内表示を用意することは、それだけでお客さまに大きな安心感を与えることができます。

もう1つ、大切な視点が、ゴミの持ち帰りマナーや、公共交通機関の利用マナーについて、あらかじめ丁寧に伝える工夫です。

鎌倉では、観光客のゴミ処理が限界に近づいているという指摘があり、箱根では、大きなキャリーケースが路線バスの車内を圧迫しているという課題があります。

宿泊施設やお店で、荷物の預かりサービスを案内したり、ゴミ袋を配布したりといった、小さな心配りが、地域住民との摩擦を減らす大きな力になります。

そして、共同浴場のように、地元住民の生活の一部である場所については、観光客に対してマナーを丁寧に伝えることも欠かせません。

大声での会話や、脱衣所での写真撮影を控えるよう、多言語で分かりやすく案内することが、観光客と地域住民が気持ちよく共存できる環境づくりにつながります。

最後に、横浜中華街の異国情緒や、箱根の黒たまごといった、神奈川県ならではの食文化を伝える工夫も大切です。

それぞれの料理や名物に込められた歴史を添えて紹介するだけで、一皿が、忘れられない旅の思い出に変わります。

人気すぎるがゆえの課題と、真摯に向きあいながら受け入れ体制を整えていくことこそが、これからの神奈川県の事業者に求められる姿勢です。

神奈川県の観光地で使える補助金・支援制度

インバウンド対応を進めるには、費用がかかります。ここでは、神奈川県の事業者が活用できる、代表的な補助金や支援制度をご紹介します。

補助金の内容や金額は毎年見直されるため、実際に申請する際は、必ず最新の情報を公式の窓口で確認してください。

神奈川県観光客受入環境整備費補助金

これは、神奈川県が用意している補助金です。外国人観光客の受け入れ環境整備や、コロナ禍で顕在化した新たな観光需要に対応する体制づくりを行う、県内の観光関連事業者を支援してくれます。

多言語表記の整備や、SDGs・脱炭素をテーマとした観光コンテンツの開発、デジタル技術を活用した業務効率化などにかかる費用の一部が対象です。

2027年に開催されるGREEN×EXPO 2027を見据えた観光需要への対応事業も、新たに項目として加わっています。

神奈川県内で観光案内所や観光施設を運営している方、観光地で店舗や事業所を運営している方が対象になります(2026年7月時点の情報のため、内容は変わる可能性があります)。

神奈川県訪日インセンティブツアー・エクスカーションプログラム実施支援助成金

これも、神奈川県が用意している助成金です。訪日外国人向けのインセンティブツアーや、体験型の短い旅行プログラムを実施する観光事業者を支援してくれます。

あらかじめ指定されたコンテンツに沿って申請する仕組みで、外国語での案内資料も用意されており、海外の旅行会社と連携した誘客を進めたい事業者にとって、活用しやすい制度です(2026年7月時点の情報のため、内容は変わる可能性があります)。

横浜市商店街ソフト支援事業補助金

横浜市では、商店街の活性化を目的とした補助金が用意されています。

情報誌の発行や、PR動画・ホームページの制作、商店街オリジナル商品の開発、外国語版の商店街マップの作成といった取り組みに対して、最大100万円が補助されます。

横浜市内で商店街活動に関わっている事業者にとって、活用しやすい制度です(2026年7月時点の情報のため、内容は変わる可能性があります)。

観光庁のオーバーツーリズム対策関連事業

2026年度の観光庁予算では、単なる観光PRよりも、オーバーツーリズム対策や、宿泊業の人手不足対策、観光DX、地方への需要分散、受入環境整備に重点が置かれています。

この記事の冒頭で触れた、鎌倉や箱根が抱える課題は、まさにこうした国の政策とも直結しています。

宿泊業の人手不足対策では、1施設あたり最大1000万円、補助率2分の1という制度もあり、混雑対策や地域住民との共生を進めたい事業者にとって、注目すべき制度です(2026年7月時点の情報のため、内容は変わる可能性があります)。

相談窓口の活用も大切です

補助金は種類が多く、条件も複雑です。どの補助金が自分の事業に合っているのか、判断に迷うことも多いはずです。

そんなときは、商工会や商工会議所、そして中小企業庁が認定する「よろず支援拠点」といった、無料で相談できる窓口を頼るのがおすすめです。

神奈川県には、鎌倉の古都情緒や、箱根の名湯、横浜の異国情緒あふれる港町という、他の地域にはない独自の魅力があります。

人気があるからこその課題と向きあいながら、こうした補助金や支援制度を上手に活用し、それぞれの事業者が、外国人観光客を迎える準備を、着実に整えていくことが、これからの神奈川県の観光をさらに大きく育てていく力になります。

誰も悪者にしないために、神奈川県が向きあうべきこと

この記事の冒頭で触れたように、神奈川県には、人気が集中しすぎたことで生まれた、なんとも皮肉な現実があります。

鎌倉小町通りで電波すらつながらなくなるほどの人出、6割の観光客が持ち帰るゴミ袋だけではもう支えきれない現状、そして海の向こうから届いた「稼がせてもらいながら観光客を悪者扱いするのは筋が通らない」という、耳の痛い指摘。

箱根では、大きなキャリーケースが路線バスの車内を圧迫し、地元の人がバスに乗れないという事態まで起きています。

江ノ島でも、期待して訪れた観光客が、混雑や渡し船の欠航によって、思うような体験を得られないことがあります。

これらの声に共通しているのは、誰か1人が悪いわけではないということです。観光客は、ただ神奈川県の魅力に惹かれて訪れているだけです。

地域住民は、ただいつもの日常を守りたいだけです。事業者は、ただ訪れてくれたお客さまを大切にもてなしたいだけです。

それぞれの立場に、何の落ち度もありません。それでも、あまりに多くの人が同じ場所、同じ時間に集まってしまうことで、誰もが少しずつ我慢を強いられる状況が生まれてしまっています。

だからこそ、この状況を変えていく鍵は、誰かを責めることではなく、混雑を分散させ、マナーを丁寧に伝え、地域住民と観光客がともに気持ちよく過ごせる仕組みを、事業者1人ひとりが少しずつ作っていくことにあります。

鎌倉や箱根だけに頼らない魅力の発信、時間帯やエリアを分散させる提案、そして観光客にもわかりやすいマナーの案内。

こうした地道な積み重ねこそが、神奈川県の観光を、誰も悪者にすることなく、次のステージへと進めていく確かな道筋になります。

この記事を書いた人

旅行、観光、IT・Webマーケティングの仕事に25年ほど携わってきた40代。現在はインバウンド対応に悩む店舗・宿泊施設の方々に向けて、実際に使えるツールや方法をまとめています。導入コストや使い勝手を含めて丁寧に検証することを心がけています。