インバウンド需要を取り込む観光農園・農業体験施設の始め方|外国人旅行者を迎えるための準備リスト

フルーツ狩りが、外国人旅行者にとって特別な体験になるとしたら

大きな都会で育った、アメリカ人の若者がいました。日本を旅行する中で、たまたま立ち寄ったのが、山あいにある、小さな観光農園でした。

目の前に広がる畑で、自分の手でいちごをつみ取り、その場で口に運んだ瞬間、若者は、大きな声をあげて驚きました。

これまで、スーパーの棚に並んだ果物しか知らなかった若者にとって、土に触れ、自分の手で収穫するという体験は、まったく新しい感動だったのです。

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日本人にとっては、当たり前の風景かもしれない、田んぼや畑、果樹園。しかし、都会で暮らす外国人旅行者にとっては、この風景そのものが、大きな魅力を持つ、特別な観光の資源になります。

観光農園や、農業体験ができる施設は、こうした魅力を活かした、これからますます注目されていく事業です。

しかし、実際に始めようとすると、農地の確保や、必要な手続き、お客さんを迎えるための設備など、考えなければならないことが、数多くあります。

農業を、単なる生産の場から、外国人旅行者を迎える、観光の場に変えていくために、何を準備すればいいのかを、順番に紹介します。

観光農園・農業体験施設とはどんな事業か

観光農園や、農業体験施設とは、農産物を育てて出荷し、販売するだけの、普通の農業とは、少し違う考え方を持った事業です。

育てた作物を、収穫する体験そのものを、お客さんに楽しんでもらい、その体験に対して、料金をいただくという仕組みになっています。

いちご狩りやぶどう狩りのように、収穫した分だけ料金を支払う形もあれば、田植えや稲刈りといった、農作業そのものを体験してもらう形もあります。

さらに、収穫した野菜や果物を使って、料理や加工品を作る体験を組み合わせる場合もあります。

ここで大切な考え方があります。それは、観光農園という事業は、農業でありながら、同時に、観光業でもあるという点です。

作物を育てる知識や技術だけでなく、お客さんをどう迎え、どう楽しんでもらうかという、接客や集客の視点も、あわせて必要になります。

普通の農業をしているだけでは、身につかない知識も、たくさん求められます。

しかし、その分、収穫した作物をそのまま販売するよりも、高い値段で価値を届けることができたり、規格外で出荷できなかった野菜や果物も、体験の中で活用できたりするという、大きな可能性も持っています。

始める前に必要な準備リスト

①農地の確保と、必要な手続き

観光農園を始めるためには、まず、実際に育てる作物のための、農地を用意する必要があります。

すでに農業をしている場合には、今使っている農地を活用することができますが、新しく農地を借りたり、購入したりする場合には、決められた手続きを踏む必要があります。

農地を借りたり、購入したりするためには、地域の農業委員会と呼ばれる組織への申請が必要になります。

農地は、誰でも自由に売買したり、貸し借りしたりできるものではなく、農業に使われることを前提に、法律で守られています。

そのため、農地を確保する際には、この農業委員会の許可を得る手続きを、あらかじめ進めておく必要があります。

また、すでに農業をしている人が、新しく観光農園を始める場合であっても、駐車場や、お客さんを迎えるための施設を整えるために、農地の一部を、別の用途に転用する手続きが必要になることがあります。

こうした手続きには、時間がかかることも多いため、観光農園を始めようと考え始めた時点で、早めに、地域の農業委員会や、市区町村の窓口に相談しておくことが、スムーズに準備を進めるための、大切な第一歩になります。

②お客さんを迎えるための設備

農地の準備が整ったら、次に考えなければならないのが、お客さんを気持ちよく迎えるための、設備です。普通の農業では、あまり必要とされなかった設備が、観光農園には、いくつも求められます。

まず欠かせないのが、駐車場です。車で訪れるお客さんが多いことを考えると、ある程度の台数を停められる駐車場を、あらかじめ確保しておく必要があります。

土地が限られている場合は、近隣の空き地を借りるなど、工夫をしながら準備を進めます。

次に大切なのが、トイレです。特に、家族連れや、長時間滞在するお客さんにとって、トイレの有無や、清潔さは、施設を選ぶ上での、大きな判断材料になります。

簡易的なものであっても、清潔に保たれたトイレを用意しておくことが、安心して訪れてもらうための、基本的な準備になります。

さらに、休憩できる場所も、用意しておきたい設備の一つです。暑い日や、収穫作業で疲れた時に、少し腰を下ろして休める、日陰やベンチがあるだけで、お客さんの満足度は、大きく変わってきます。

こうした設備は、一度に完璧に整える必要はありません。まずは、最低限必要なものから用意し、お客さんの様子を見ながら、少しずつ充実させていくという進め方でも、十分にスタートすることができます。

③体験の内容を決める

設備の準備と並行して、考えておきたいのが、お客さんに提供する、体験の内容です。ただ収穫させるだけでは、他の観光農園との違いを、打ち出しにくくなってしまいます。

まず基本となるのが、収穫体験です。いちごやぶどう、みかんなど、育てている作物に応じて、収穫する楽しさを、お客さんに味わってもらいます。

この収穫体験に、ひと工夫を加えることで、より満足度の高い体験に仕上げることができます。

例えば、収穫した野菜や果物を使って、その場で簡単な料理や、ジャムなどの加工品を作る体験を組み合わせる方法があります。

自分で収穫したものを、自分の手で調理するという体験は、多くのお客さんにとって、記憶に残る、特別な思い出になります。

また、収穫体験だけでなく、その土地ならではの食事とセットにすることも、効果的な工夫です。

地元の食材を使った昼食を、体験とあわせて提供することで、農園での滞在時間が長くなり、より深く、その土地の魅力を感じてもらうことができます。

体験の内容を考える時に大切なのは、自分の農園ならではの魅力を、何か一つ、はっきりとした形で打ち出すことです。

他にはない体験を用意することが、多くのお客さんに選んでもらうための、大きな力になります。

④外国人旅行者向けの準備

観光農園を、外国人旅行者にも楽しんでもらうためには、日本人のお客さんを迎える時とは、また違った準備が必要になります。

まず取り組みたいのが、多言語での案内です。収穫の仕方や、農園内で気をつけてほしいことを、英語をはじめとした、複数の言語で伝えられるようにしておきます。

難しい説明文を一から作る必要はなく、写真や動画を使って、実際の動作を見せることで、言葉が完全にわからなくても、直感的に伝えることができます。

次に大切なのが、宗教や文化への配慮です。例えば、収穫した作物を使った食事を提供する場合には、豚肉やお酒を使っていないメニューを、あらかじめ用意しておくことが、イスラム教徒のお客さんへの、心強い対応になります。

また、外国人旅行者は、旅の思い出を、写真や動画で記録することを、大切にしている人が多くいます。

収穫した作物を手に持って撮影できる、絵になる場所を用意しておいたり、スタッフが写真を撮ってあげたりする心配りも、満足度を高める、大切な工夫になります。

こうした準備は、一度にすべてを整える必要はありません。

多言語の案内板を一枚用意すること、宗教に配慮したメニューを一品用意すること、その一つひとつの積み重ねが、外国人旅行者にとって、安心して楽しめる観光農園へとつながっていきます。

開業資金の目安と、活用できる支援制度

観光農園を新しく始めるためには、それなりの開業資金が必要になります。新しく農業を始める人が、開業までに用意した自己資金は、平均でおよそ528万円というデータがあります。

さらに、実際に農業を始めた1年目には、平均でおよそ774万円の資金が必要になったという調査結果もあります。

これは、新しく農業を始める場合の、全体的な目安であり、すでに農業をしている人が、観光農園としての設備を追加する場合には、これよりも少ない資金で始められることもあります。

しかし、駐車場の整備や、体験に必要な道具の準備など、思っている以上に、さまざまな費用がかかることを、あらかじめ見込んでおく必要があります。

こうした資金の負担を軽くするために、活用できる支援制度もあります。

都道府県や市区町村によっては、観光農園の開業や、農業の6次産業化と呼ばれる、加工品づくりや体験サービスの提供を支援するための、独自の補助金を用意している場合があります。

自分の地域に、活用できる制度がないかどうかを、農業委員会や、市区町村の農業関連の窓口に相談してみることで、思わぬ支援が見つかることがあります。

すべてを自己資金だけでまかなおうとせず、こうした制度も視野に入れながら、無理のない計画を立てていくことが大切です。

(情報は2026年7月時点のものです。資金の目安や支援制度の内容は変わることがありますので、詳しくは各窓口にご確認ください。)

土に触れる体験が、外国人旅行者に特別な思い出を届けます

冒頭で紹介したアメリカ人の若者のように、都会で暮らす人々にとって、土に触れ、自分の手で作物を収穫するという体験は、日常では味わえない、大きな感動をもたらします。

日本人にとって当たり前の農村の風景が、海外から来た旅行者にとっては、かけがえのない観光の価値を持っているのです。

農地の確保、設備の準備、体験の内容づくり、そして外国人旅行者に向けた工夫。一つひとつの準備には、確かに手間も、資金もかかります。

しかし、その先には、収穫した作物を手にして、目を輝かせる旅行者の姿が待っています。

観光農園は、単に農産物を育てて売るだけの事業ではありません。土の匂い、収穫の喜び、自然の中で過ごす時間、そのすべてを、旅の思い出として届けることのできる、特別な場所です。

この記事で紹介した準備を、一つずつ形にしていくことで、あなたの農園も、外国人旅行者にとって、忘れられない一日を届ける場所になっていきます。

この記事を書いた人

旅行、観光、IT・Webマーケティングの仕事に25年ほど携わってきた40代。現在はインバウンド対応に悩む店舗・宿泊施設の方々に向けて、実際に使えるツールや方法をまとめています。導入コストや使い勝手を含めて丁寧に検証することを心がけています。